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2000  Vol. 10


全日本ラリー選手権四駆部門第6戦 モントレー2000

 

三つ巴の死闘を西尾が制す

豪雨の舗装をセミレーシングで攻める極限の緊張バトル

 

 

レポート:コドライバー山口顕子/写真:Tommy

 

 全11戦ある2000年シーズンのちょうど中間点となるモントレー。今年も過去2年と同様、宮城村にある「ドイツ村クローネンベルク」の駐車場をスタート地点としてその幕を開けた。

 今回はレカロカップシリーズの第2戦でもあり、ラリーの構成はWRCと同様、SSとリエゾンのみ。SSは、第1セクションがクローネンベルク内の特設コースでのギャラリーSS2本を含むダート4本、第2、第3セクションはすべて舗装の林道で11本、合わせて15本、距離にして52.6kmが用 意されている。


 オープニングはクローネンベルク内のギャラリーSS。この特設コースは地面が粘土質で、いったん雨が降るとドロドロになって極端にグリップが低下する。一昨年は雨の中スタックするクルマが続出した。今年は、当日は曇りだったが、前日の雨のためにやはりひどいマッド状態で、スタックを避けるためにコースの後半がカットされ、1kmの予定が実際は700メートルぐらいのものになってしまった。

 そんな短いSSだが、ここでうまく走れば意外とタイムが稼げることを、私たちは一昨年の経験から知っていた。SS1は奴田原と同秒ベストタイムの38秒で、3位以下を2秒以上引き離す。続くSS2の林道でも西尾と奴田原はベストタイムを分け合って譲らず。SS3で奴田原が1秒リードしたが、SS4はまたも同秒ベスト。第1セクションを終わって西尾・奴田原が抜け出し、今回もこの2人の一騎打ちの様相だ。

 第2セクションに入っても2人のトップ争いは続く。SS5で西尾が奴田原に3秒勝ち、2秒差でトップに立ったが、SS6では奴田原が西尾に2秒勝ち、勝負は振り出しに。続くSS7でも2人は同タイム。こうしてラリーは後半戦に入っていく。

 しかし、異変はこのSS7から始まっていた。41号車・田中がオイルパンを破損し、コース途中でわき道に入ってリタイヤ。だが、その間のコース上にはオイルスリックが残った。このオイルスリックに乗って、優勝候補の一人、 地元群馬県出身の石田正史がコースアウト。私たちは幸運にも、正史がコース途中でスローダウンの合図をしてくれていたので難を逃れたが、その部分の路面は本当にものすごく滑りやすかった。(じつは、西尾が「ひやーっ、なんやこれは!? アイスバーンよりも滑る!!!」と叫んだとき、私は内心、「何をオーバーな」と思っていたが、オイルが出ていたのなら、さもありなん。)

 こうして、41号車以降のドライバーたちは、途中から極端に滑りやすくなっている路面に驚き、それ以後アクセルが踏めない。その結果、地元の新人・入沢(35号車)がぶっちぎりのベストタイム、これに同じく地元の新人・鴇崎(23号車)が続いた。もう一人の地元の優勝候補・大嶋(43号車)は、オイルス リックにたじろいで後輩の後塵を拝することになったが、それでも西尾、奴田原に5秒勝った。こうして大嶋がトップ争いの一角に姿を現わすことになる。

 

  SS7と同じ道を下るSS8は、当然オイルスリックを警戒しなければなら ない。SS7を通ったときに、だいたいどのあたりが滑りやすかったかをどのコドライバーもペースノート上でチェックしていた。ところが、オイルスリックはクルマが走れば走るほど広がっていったようで、私たちが走るころにはコースのほぼ全域にわたっていた。

 

 SS7では消極的すぎたと反省した西尾は、SS8は思いきって攻めた。 コース脇にはあちこちでクルマが落ちていたが、アクセルは緩めなかった。少 なくとも5回は「おーっとっと」とか「ひょー」とか「うわー」とか叫んでいた記憶があるが、なんとか道の上に残った。結果はベストタイムで首位をキープ。西尾と同秒ベストをとった大嶋がここまでのトータル3秒差で続き、奴田原は大嶋と3秒差の3位に下がった。

 ちなみに、SS7とSS8だけで、なんと11台もがコースアウト、リタイヤすることになってしまった。リタイヤは免れたがガードレールや土手に当 たってクルマに大きなダメージを負った者もいた。

 SS8を終えるとラリー車はサービスを受ける。この頃から雨がパラパラと降 り始めた。約1時間のサービスの後、ラリーは7本のSSから成る第3セクションに入る。このセクションに向けて、西尾と大嶋はドライ用タイヤを選んだ。雨はこれ以上強くならない、という判断だ。いっぽう、奴田原と柳沢はウェット用を選んだ。

 各車がサービスを出た頃から雨が強くなり始めた。第3セクションオープニングのSS9は、柳沢がベストタイム、2秒差で大嶋、その1秒落ちで西尾、さらにその2秒落ちで奴田原という結果。このオーダーでは、ドライ用がよかったのかウェット用がよかったのか、判断はできない。SS10に向かって移動するころ、雨はますます激しくなってきた。こうして、このラリー最長のSS、約9kmのアップダウンコースに突入する。

 

 コース上は流れる雨水でところどころハイドロプレーニングが起き、下りに入ると霧も出始めた。初めて走る道でこのコンディションでは、自然とアクセ ルも踏みちびる。フィニッシュで他車のタイムを聞いて、私たちは愕然とした。ベストタイムは地元・鴇崎の8分01秒、大嶋が07秒、奴田原が08秒。西尾のタイムは14秒だ。ここで大嶋に一気に逆転されてしまった。奴田原ともこれで2秒差。SS11は同じコースを同じ向きに走る。このままでは奴田原や他の選手にも抜かれてしまう。

 SS10とSS11は同じコースを走るので、50台が出場しているこのラリーでは、少なくともSS10とSS11のスタート時間は50分以上あくようにスケジュールが組まれている。この間に、西尾はタイヤの空気圧を変えた。今回初めて使うスペックなので、タイヤエンジニアの指示どおり普段より空気圧を高めにしていたが、SS9、10を走った感触から、空気圧を下げたほうがいいと判断した。果たしてこれがどう出るか?

 SS11に入ると、雨は土砂降りの様相を呈してきた。しかし、もうこれ以上タイムを失うことはできない。雨とモヤで視界がさえぎられるとついひるみそうになる気持ちを奮い立たせるように、思いきり大きな声でノートを読む。 フィニッシュに飛び込むと自分まで呼吸が荒くなっていた。タイムは8分09秒。1回目より5秒上がった。雨は激しくなっているから、これはかなりいいタイムのはず。そう思いながら、計時車まで行く。オフィシャルが興奮気味に 「ベストタイムです!鴇崎は落ちて15秒です!大嶋さんは11秒です!」と教えてくれた。しばらく待って後続の奴田原のタイムを聞いた。同タイムのベスト。これで奴田原との2秒差は守った。大嶋にはあと3秒だ。

 

 SS12は昼間にSS5で走ったのと同じ道。たった1.8kmの短いSSだが、SS5では2位を2秒離すベストタイムだったから、今回も大丈夫だろう。そう思って少し気が緩んでいたのだろうか、昼間のときのような切れ味がなかった。オフィシャルも秒差の戦いに注目しているのか、私たちが計時車にク ルマを横付けするなり、「41秒です!ベストは大嶋さんの40秒です!」と大声で告げる。また大嶋と4秒差に開いてしまった。奴田原はまたもや同秒なので、まだ2秒差だ。

 「いまのSSは最初のコーナーでグリップがないように感じた。それでそのあと、探りながらの走りになってしまった」と西尾が反省する。それにしても、どのSSの結果を見ても、ドライタイヤがいいのかウェットタイヤがいいのか、さっぱりわからない。これほどの雨にも関わらず、今のSSではドライタイヤの大嶋がベストタイム、その前はドライの西尾とウェットの奴田原がベストだ。ハイドロプレーニングが起きるのはドライタイヤを履いているせいかと思ったが、実際のところ、奴田原も同様にハイドロプレーニングを経験しているという。要は、 これだけコンディションが悪くなるとタイヤはドライ用でもウェット用でも大差なく、気合を入れて走ればタイムが上がり、ちょっとでも気持ちが引くとタイムが落ちる、ということなのだろう。

 そうとなれば、勝つためには思いきって攻めるしかない。SS13に向かうころには、雨は叩きつけるように激しくなっていたが、覚悟は決まった。この道の前半は回り込んだコーナーが多く、どこまでアクセルを開けていられるのかわかりにくい。昼間に走ったときはびくびくしながらアクセルを早く戻していたが、 今度は思いきって踏み続けた。結果は、1分57秒のベストタイム。

 

 同じ場所をSS6で昼間、雨が降っていないときに走ったときのタイムは1分59秒だった。「やればできるもんや」と西尾も驚く。普通、天候が同じであれば、夜になって見えにくくなる分タイムは落ちる。土砂降りの雨にうっすら霧がかかり、路面はハイドロプレーニングが起きるような状態で、そんなタイムを出せるとは。ここで大嶋、奴田原にそれぞれ3秒ずつ勝ち、大嶋との差は1秒になった。奴田原との差は5秒に開いた。あとは鍋割林道の上りと下 り、計10kmを残すのみだ。

 地元の大嶋は当然鍋割には自信を持っている。実際SS7では、オイルがコース上にあったときに走った者の中ではベストタイムだった。しかし、西尾も過去何度もここでベストタイムをとっているから勝負はわからない。このようにコンディションの悪い状況では、ささいなミスも大きなタイムロスやダメージにつながるから、奴田原との5秒差も一発でひっくり返される可能性がある。マージンを持った走りでは勝利は望めない、と気合を入れ直す。

 もう数時間も土砂降り状態が続いているのだから、あのオイルは流れてしまっただろう、と私たちは考えた。今回は思い切り攻めよう、と決めてSS14をスタートする。ところが、コース中盤からまたもや路面が思った以上に滑りやすいことに気づいた。こんどはオイルではなく、落ち葉だった。コース脇に積もっていた落ち葉が、雨に流されて道路上に出てきたのだ。これに乗ると、途方もなく滑る。

 

 リタイヤするわけにはいかない。かといって、負けるわけにはいかない。その中間をとったつもりだったが、果たしてライバルたちに比べてどれくらいの出来ばえだったのか。「う〜ん、今のはわからんなあ〜」と西尾。計時車でタイムをもらい、他の選手が待機しているところに向かう。最終SSは同じ場所を下るので、先に走ったクルマがゼッケン順に下り方向を向いて並んでいる。途中、大嶋が渋い顔をして立っていた。西尾が話しかけると、「クルマがおかしい」と言う。

 大嶋はドライブシャフトが折れたらしい。SS14のタイムは柳沢がベスト で3分58秒、西尾が4分05秒、奴田原は09秒、大嶋は12秒。これで 大嶋を逆転して6秒差になった。クルマのセッティングにもよるが、全日本ラリー仕様のインプレッサなどは、1輪の駆動がなくなるとクルマをまっすぐ走らせるだけでタイヘンだ。大嶋が次のSSで西尾を逆転するのは不可能になってしまったと言っていいだろう。

 奴田原との差も9秒に開いた。あとはこれを守るだけ。一見簡単なようだが、落とし穴はいつでもどこにでもある。守りに入った途端に極端に遅くなることもあるし、安心して集中力が切れたために、普段なら考えられないような ミスをすることもある。最後まで同じ調子で走ることが本当は一番安全だということは、長年の経験で知っていた。

 こうして、最後のSSも緊張感を持ったまま攻め抜いた。結果は、柳沢には1秒及ばなかったものの、堂々のセカンドベストで勝利を決定づけた。今年3度目の優勝だが、今回の気持ち良さは格別。最後まで競り合い、戦い続けて勝ったのだから。

 ところで、こんな戦いをしていることを、このとき一体何人の人が知っていただろうか? 少なくとも、私たち2人と、奴田原/小田切組、大嶋/小井土組、そして私たちにタイムを告げるオフィシャルたちは、各SSのタイムを 即座に知り、それぞれの結果に興奮し、あるいは落胆し、ラリーを存分に楽しんだと思う。それはそれでよかったが、願わくば、この楽しみを他の人たち、とくに、ラリーを見に来てくれたファンの人たちにも 、共有してもらいたかった。

 リアルタイムでなく少し遅れてもいい。SSタイムが発表されれば、ラリーを見る楽しみはぐっと増すと思う。WRCでは(少なくともニュージーランドとオーストラリアでは)、たえずSSタイムの最新情報がプリントされ、ルー ト上で無料配布されている。全日本では予算の都合上そこまでするのは難しいかもしれないが、サービス会場に掲示板を立てて速報を出すぐらいなら、そうお金もかからないのでは? 主催者は、ぜひともそういう方向でこれからのラリーを作っていってほしいと思う。

 

Cクラス競技結果(出走33台、完走21台)

順位 クルー 車両 タイヤ 合計タイム(秒)
1位 西尾雄次郎/山口顕子 インプレッサ FK 2782
2位 奴田原文雄/小田切順之 ランサー YH 2794
3位 大嶋治夫/小井土要三 インプレッサ YH 2798
4位 柳沢宏至/美細津正 インプレッサ YH 2811
5位 松井孝夫/遠藤彰 ランサー YH 2832
6位 鴇崎和義/佐藤忠宜 ランサー YH 2844

 

Date  2000年6月10日12:01〜6月11日午前5時ごろ
Place  群馬県宮城村「ドイツ村クローネンベルク」スタート、同県新治村・猿ケ京温泉フィニッシュ
Data  SS総距離 52.6km